2013年10月10日木曜日

北極に軍事基地復活:中国をけん制するロシア

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●人工衛星がとらえた融解最小時期の北極海氷分布
(左:1979年、中央:2007年、右:2011年)
出典:http://www.eorc.jaxa.jp/imgdata/topics/2011/tp110920.html


JB Press 2013年10月07日(Mon) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3219?page=1

北極に軍事基地復活
中国をけん制するロシア

最近、北極海を巡る議論がかまびすしい。

 事の発端は、温暖化にありそうだ。
 温暖化は世界的な現象であるが、北極海では、海氷の減少など、様々な異変が如実に現れており、またそのことが資源や輸送路の争奪戦といった新たな国際間摩擦の火種となっている。
 その動きの中で特に目立った動きを見せている国がロシアである。

 今年2月、プーチン大統領は、ロシアの北極海の権益が他国に脅かされていると発表し、軍事的対応を強化することを示唆した。
 それを受けて、9月16日には、北極海航路の巡視を強化するため、1993年に閉鎖していた北極海のノボシビルスク諸島のソ連時代に建設された軍事基地を、20年ぶりに復活させ、軍隊を常駐させる方針を発表したのだ。
 既に同月12日、軍艦10隻が同地に到着したことも明らかにした。

 大統領は、一度閉鎖した軍基地を再開させる理由として、同地の重要性が再び増したことを強調した上で、北極海航路の安全と作業効率を保証し、ロシアの領海であるこの一帯を効果的に開発・管理する重要性を掲げ、そのために、非常時対象や地質学者、気象専門家と共同作業を行なうことも強調した。
 また空港の整備も進められており、10月から軍用機が発着できる予定だという。

■加熱する北方航路を巡る利権の争奪戦

 温暖化による北極海の変化は諸外国の利害が交錯する諸問題にも影響を及ぼす。

 第一に、北極海航路が利用しやすくなったということがある。北極海航路とは、ベーリング海峡とロシア沿岸の北極海を通り、東アジアと欧州北部を最短距離で結ぶ航路である。
 かつて、ソ連は軍事上の理由からも北極海航路を積極的に開発したが、ソ連解体後の混乱を受け、当地の軍事基地も1993年に閉鎖され、同航路は衰退してしまっていた。

 現在は、国連海洋法条約に基づき、ロシアが安全や環境保護の観点から航行許可を出している状態だ。
 さらに、ロシアは同航路を通る全ての船舶にロシアの砕氷船によるエスコートを義務付けており、北極海航路は事実上、ロシアのコントロール下にあると言って良い。

 そんな北極海航路が温暖化で世界の注目を浴びるようになった。
 大陸沿岸の海氷後退により、カナダ北部の多島海を通る北西航路と、シベリア沿岸の北方航路の両方が開通する期間が長くなり、開通する幅も広くなったからである。
 ただし、開通期間は夏場の約4カ月に限られ、その期間でさえも、砕氷船の支援が必要である。
 それでも、北極海航路を利用することで、航路がかなり短縮できるケースも多く、時間や燃料を中心とした諸コストを削減でき、多くのメリットを享受できる。

 北方航路を巡る利権の争奪戦は密かに加熱し始めている。
 実際、北極海航路を航行する船舶数は年々増加しており、国際海事機関(IMO)によると、2010年は4隻だったが、11年に34隻、12年は46隻で、今年は昨年を上回る見通しだという。

■「海底にロシア国旗」で関係各国を刺激

 第二に、北極圏には世界の未発見原油の10%、天然ガスの30%、さらにニッケル、コバルト、金、ダイヤモンドなどの豊富な天然資源や鉱物が眠るといわれる。
 北極海の海氷が融解すれば、これら天然資源の採取が可能となる。
 そのため、大陸棚の領有権を巡る争奪戦も激しさを増してきている。
 最も活発な動きを見せているのは、やはりロシアだ。

 ロシアは200海里の排他的経済水域(EEZ)を越える北極海の中央部の海底が、自国の大陸棚であると主張する申請書を2001年に国連の大陸棚限界委員会(CLCS)に提出した。
 また、この際、オホーツク海(北方領土問題と関わる)、ベーリング海、バレンツ海についても同様の申請をしていたが、データ不足や関係諸国との調整の必要ありとのことで、全て却下されていた。
 その後もロシアは大陸棚の獲得に躍起になっていった。

 2007年8月には、計6人を乗せたロシアの小型潜水艇ミール1号と2号が北極点周辺の海底に到達し、ロボットアームで土壌採取などの探査を行なった他、深さ約4300メートルの海底にさびにくいチタン製のロシア国旗を立てた。北極点付近の海底に有人潜水艇が到達するのは世界史上初であった。
 その旗は、国際法上何の意味も持たないが、ロシアの資源開発権の主張の大きなシンボルとして、関係各国を刺激した。

 この調査を受け、同年9月20日には、ロシア天然資源省が収集データから「同海域の海嶺がロシア領の延長だという主張を裏付ける資料が見つかった」と発表し、国連への領有権主張の申請の補強材料にすることも明らかにした。

 さらに、2012年にはロシア人科学者は世界に先駆けて深海ボーリングを行なったのである。
 探査用のロシア海軍の潜水艦が約2キロの深さに潜り、試料の採取場所を特定し、ボーリング用装置によって採取したという。
 ロシアはこの研究作業を入念に進め、2013年末までにCLCSに再度、申請書を提出するという。
 なお、国連がその申請を受理した場合、ロシアの領土には、120万平方キロメートルに及ぶ豊かな天然資源を持つ領域が加わることになる。
 海底が陸地からの延長である大陸棚と認められれば、海底の資源の研究権や開発権が確保できるため、ロシアが躍起になるのも当然だろう。
 こうしたロシアの動きによって、各国も「科学的根拠」にこだわるようになっていった。

■北極海をめぐるプレーヤー・中国の顕著な動き

 だが、諸外国がロシアの動きを容認するわけはなく、反発も多い。
 特に反発しているのがデンマークやカナダであり、それぞれ、北極海の海底は自国の沿岸と地質学的に地続きだと主張しており、両国共に、CLCSに科学的根拠を持って申請をすべく、準備を進めている。
 加えて、ロシアとカナダは、お互いに同地域での存在感を高めるため、自国軍も利用して、軍事的な示威行動を度々行なってきた。

 北極海をめぐるプレーヤーは沿岸国にとどまらない。
 北極には、領有権主張を凍結した「南極条約」のような条約が未だ存在しないため、世界各国がより大きな権益を求めて争いを熾烈化させる余地が大いにあるのである。

 日本も資源獲得に強い関心を持っているし、何より目立つのが中国の動きだ。
 中国は1990年代から北極海への関心を高め、北極海圏内に領土がないにもかかわらず、「北極圏近郊諸国」の地位を主張し、同地域開発の中心的存在である前述の「北極評議会」に長年非公式に参加し、ついに今年5月に常任オブザーバー入りを果たしたのだ。

■ロシアのエスコートを受けずに単独で帰還

 さらに中国は、同地の資源のみならず、北極海航路にも既に触手を伸ばしている。
 中国は、ロシア沖の北極海を横断して欧州に到達する新たな商船ルートの開拓を進め、昨年8月にはウクライナから購入した砕氷船「雪龍」で北極海での試験航行を成功させた。
 しかも、この際、一般原則通りロシアの砕氷船のエスコートを受け、アイスランドに到達したものの、帰路は北極点付近を通過し、ロシアのエスコートを受けずに単独で帰還したのである。
 このことは、中国の砕氷船が独自で砕氷し、航行できたことを意味する。

 中国のその行動については、色々な憶測がなされているが、
●.ロシアの影響を受けない最短ルートを探しているという説、
●.海底資源を探査しようとしているのではないかという説、
また
●.北極海は冷戦時代に潜水艦の活動が顕著だった地域でもあり、中国が軍事目的で北極海の地質や水温などのデータ収集をしようとしているという説
などがあるが、どれも北極海に利権を求める諸国にとっては脅威だといえる。

 さらに今年の8月~9月にかけて、初の北極海航行を成功させた。
 航行したのは、国有海運大手・中国遠洋運輸集団(コスコグループ)傘下の中遠航運(広東省)が運航する多目的貨物船「永盛」(総積載量1万9461トン、全長160メートル)である。
 北極海ルートは、従来のスエズ運河経由の航路に比して、航行日数を約2週間も短縮できるというメリットがあり(ただし、前述の通り、現状では夏場を中心とした約4カ月しか航行はできない)、中国サイドは、中国が目指す海洋国家建設にとっても重要な意味を持つとして高く評価している。
 2020年までには中国商船の5~15%が北極海航路を利用するようになるという試算もあるほどだ。

そして北極海航路で中継拠点としての意味も持つアイスランドに接近、今年4月には、中国にとって欧州国家としては初の自由貿易協定(FTA)を締結するなど、北極海諸国への接近にも余念がない。

■権益保持のため軍事的対策の強化

 そのような中、ロシアは本気で北海圏の権益を保持するための対策を強化しつつある。

 冒頭で触れた基地の復活や、過去にもたとえば2012年9月には、ロシアの軍・政治指導部が、北極海のノバヤゼムリャ群島にある元核実験場の防衛措置を強化し、防空軍部隊と全天候型航空機を配備、さらに群島周辺の海域には北方艦隊の艦船が戦闘態勢を敷くことが報じられた。ロスアトム(国営原子力企業)は、核兵器の信頼性と安全性を判定するため、同地で核兵器の臨界前核実験を再開する可能性があることもほのめかした。

 実験基地であるノバヤゼムリャは確実な防衛態勢下に置かれる必要があり、同地のロガチョボ飛行場に迎撃戦闘機ミグ31の編隊が配備されることとなった。
 これらは、ノバヤゼムリャのみならず、北からの攻撃からロシア国境を守るだけでなく、もちろん北極海防衛の意味も持っている。
 ソ連時代およびソ連解体後も1993年までは、同飛行場に迎撃機が配備され、空から核実験場を防衛する任務を果たしていたが、その機能が復活されることとなったのである。

 さらに、2012年から、北極海では部隊の戦闘訓練と関係した措置が再開された。
 それはテロ攻撃を想定した海兵隊上陸作戦を想定している。
 2012年の同訓練は、7000人超の人員、潜水艦を含め20隻以上の艦船、約30機の航空機、150台の戦闘車両が参加するという大規模なものとなった。

■世界最大の原子力砕氷船を建造予定

 また、昨年12月20日には、プーチン大統領が「我々は砕氷船団を増強する。
 これは最も重要な動脈(北極海航路)を発展させるという真剣な意思表明だ」と記者会見で発表し、ロシアの権益を守るために北極海航路の開発と新砕氷船建造を進める意思を表明した。
 ロシアは6隻前後の原子力砕氷船を保有し、北極海を通る船のエスコートや北極圏開発などに運用しているが、全てソ連時代に建造または計画された船であるため老朽化が進んでいる。

 そこで、北極海航路での船舶増加や資源開発の進展を睨み、新たに3隻が造船されることとなったのである。
 その内の一隻は、全長約173メートル、幅約34メートルで、コンテナ輸送用の特殊な船を除けば、ロシアが保有する世界最大の原子力砕氷船「戦勝50年」をもはるかにしのぐ、通常の原子力砕氷船としては世界最大の大きさになるという。
 建造費は約1070億円に及ぶという。
 同船は、厚さ4メートルの海氷も割ることができ、最大7万トンのタンカーを先導できる。
 同船は、2017年に完成予定で、北極圏ムルマンスク港を拠点として活動することが予定されている。

 さらに、9月25日には、プーチン大統領が北部サレハルドで開かれた北極に関する国際会議「北極―対話の領域」で演説し、北極圏の環境保全策を強化する方針を発表した。
 諸開発などの経済活動、軍事活動、環境保全を全て成立させていく意思を明らかにしたのである。
 北極圏の自然保護の具体策としては、約32万平方キロメートル(北極圏ロシア領の約6%に相当)の北極圏の自然保護区を数倍に広げることや希少生物の保護などの計画が明らかにされ、政府予算から汚染対策としてすでに約45億円が拠出されていることも強調された。

■北からも南からも、中国をけん制

 このように、ロシアは北極海の問題に対し、包括的な対策を強化している。
 特に、基地の復活の背景には、資源開発を安全に進める、また北極海の航行量の増加に対応するという理由があるのはもちろんだが、直接的には中国に対する牽制ではないかと見る向きが少なくない。
 今年3月には、中国を牽制するために、ベトナムがロシアを引き込み、南シナ海カムラン湾の共同開発が開始されたことも報じられており、ロシアは中国を北からも南からも牽制したい様子が見て取れる。

 北極海問題は、世界規模でも大きな争点となりつつあるが、中国とロシアの関係を見て行く上でも大きなキーワードとなっていくだろう。

by 廣瀬陽子 (慶應義塾大学総合政策学部准教授)



AFP BBnews 2013年10月09日 15:53 発信地:ストックホルム/スウェーデン
http://www.afpbb.com/articles/-/3001067

北極海航路の商業利用、実現は「20年以上先」 海運最大手CEO

【10月9日 AFP】海運最大手A.P. モラー・マースク(A.P. Moeller-Maersk)のニルス・アンダーセン(Nils Andersen)最高経営責任者(CEO)は7日、英経済紙フィナンシャル・タイムズ(Financial Times、FT)に対し、北極海を経由する「北極海航路」の商用利用は少なくとも10~20年は実現しないとの見方を示した。

 アンダーセンCEOは、中国・欧州間の航行距離を大幅に短縮する北極海航路について、「今後10~20年以内に実現するようなものではない」と語った。

 最近、中国の商船が初めて北極海航路を航行したことから、同航路の利用が活発化するのではないかとの観測が広がっていた。

 中国から欧州への航行が約2週間短縮されるロシア北部を通過するこの航路は、地球温暖化の影響で航行可能になったが、現在は1年のうち北極の氷が解ける4か月間だけ利用可能となっている。ただ砕氷船による先導が必要なためコスト高となる側面がある。(c)AFP




【トラブルメーカーから友なき怪獣へ】



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