JB Press 2013.11.20(水) The Economist
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39212
中国の不動産:幽霊屋敷
(英エコノミスト誌 2013年11月16日号)
大手デベロッパーや国営新聞までもが不動産バブルに対する不安を漏らし始めた。
中国では、不動産価格の上昇は永遠に続き得る。
少なくとも楽観主義者はそう考えているようだ。
彼らは、中国では史上最大の都市化が進んでいると指摘する。
田舎からの移住者の大群は皆、住む家が必要だというのが彼らの主張だ。
膨れ上がる中国の中間層の多くが1980年代に建てられた安普請の住宅で暮らしており、彼らもまたもっと豪華なマンションやマクマンション(大衆向けの大邸宅)への転居を熱望している。
その結果が、過去10年の驚異的な不動産ブームだった。
一見したところ、好況期はまだ続いているように見える(上図参照)。
今年に入ってから第3四半期までの住宅販売は、前年同期比で35%増加している。
新築住宅の価格は9月に、全国の主要70都市のうち69都市で前年同月比で上昇した。
上海、深セン、北京では、住宅価格が2割以上跳ね上がった。
南京や厦門(アモイ)など、それより若干小さな都市では、15%前後上昇した。
■カネを追え
こうした活力の兆候にもかかわらず、中国最大クラスの不動産王数人は不安を募らせているように見える。
住宅販売件数で中国最大の不動産会社である万科企業(チャイナ・バンカ)の王石会長は、同市場をバブルと呼んだ。
中国一の富豪で、不動産大手からエンターテインメント企業に転換している大連万達集団(ワンダ・グループ)の王健林会長は、「制御可能」と考えながらも、中国の一部地域が不動産バブルを経験していると認めている。
長年、中国に強気だった香港の大富豪、李嘉誠氏は、本土に保有している物件を売却し始めた。
問題は、住宅の評価額が最も高い豊かな都市ではない。
実際、そうした市場では、価格がまだ上昇する可能性がある。
中国全土の人々が上海と北京で知名度の高いマンションを買っているため、両市場はマンハッタンやロンドン中心部と同等の回復力を持つ。
実のところ、投機抑制を目的とする政策は、これら大都市での不動産需要を人為的に抑えている可能性もある。
上海と深センは最近、北京の前例に倣い、2軒目の住宅を購入する買い手に対して購入価格の7割を頭金として支払うことを義務付けた。
北京では、2軒目の住宅を売却する際に、20%のキャピタルゲイン税が課される
(これは建前上は全国的な政策だが、他の都市では常に執行されるわけではない)。
報道によると、住宅を2軒保有している夫婦が、納税を避けるために離婚しているという。
正式に独身者となれば、それぞれが主たる住宅を1軒ずつ保有でき、罰金を払わずにどちらか1戸を売却できるからだ。
しかし、中国東北部の営口(インコウ)沿海産業基地のような場所では、需要があまり強くないようだ。
営口の開発プロジェクトは、地元の政府が将来的な経済活動の拠点として推進したものだが、将来はまだやって来ない。
街には空っぽのビルが立ち並び、通りには人影がほとんどない。
●上海や北京のような大都市では住宅価格が依然高騰し続けている(写真は上海)〔AFPBB News〕
■大都市以外はゴーストタウンさながら
不動産会社の営業マンは、コカ・コーラから中国石油天然気(ペトロチャイナ)まで様々な大企業が近くに工場を建設していると主張する。
しかし、国営メディアの新華社通信でさえ懐疑的で、先ごろ、街灯と時折通り過ぎる自動車を除けば「夜の産業基地は完全な暗闇だった」と報じた。
大都市以外での不動産開発の多くは、これと同様のゴーストタウンになっているようだ。
米格付け会社ムーディーズは、新規供給物件の多くが比較的小規模な都市に流れ、その比率が上昇していると嘆いている。
やはり政府の機関紙である人民日報は最近、このような建設が意味する「莫大な資源の無駄」を激しく非難した。
にもかかわらず、政府の調べでは、12省の144都市が200もの新都市創設を計画している。
実情を言えば、新築住宅のストックが急増している。
コンサルティング会社のゲイブカルの計算では、10年間の供給不足を経て、中国の住宅市場は今、「構造的過剰供給」に転じようとしている。
ゲイブカルの専門家らは、昨年の住宅完成の面積が11億平方メートルに達し、2008年以前に見られた数値の2倍近くに上っていると指摘する。
資産運用会社のアライアンス・バーンスタインも、建設ペースが販売を上回っていることを心配している。
これが原因で、完成したが売れ残っている住宅の過剰在庫が増加していると同社は考えている。
さらに悪いことに、販売に関する統計が誤解を与えている可能性がある。
調査会社J・キャピタルのアン・スティーブンソン・ヤン氏は、新築物件はかなりの割合で、個人ではなく、地元政府、銀行、国営企業によって購入されていると主張する。
こうした物件のうち、どれくらいが最終的に一般市民に売却されるのか、また、どれほど値引きされて売られるのかは分からない。
また不動産デベロッパーそのものに対する懸念も生じている。
デベロッパーは大量の債務を抱え込んできた。
バーンスタインのアナリストたちは、不動産業界の債務は過去10年間で最大の水準に膨らんでいると考えている。
このため業界は景気の下降に対して「非常に脆弱」になっている。
もし経済が厳しい局面を迎え、販売が鈍れば、絶望的な状況にあるデベロッパーが値引きの悪循環を引き起こす可能性がある。
一方で、中国の不動産王たちがどこにお金を投じているかという問題もある。
中国の大手デベロッパーによる海外投資や看板不動産の買収が行われない週は、ほとんどない。
大連万達は、産業(万達の経営トップは映画王になることを目指しており、中国の港湾都市の青島に、本人いわく世界最大の映画スタジオを建設している)と地理(ロンドンのテムズ川南岸に大型ホテルを建設している)の両面で多角化を図っている。
万科は数十年間にわたり完全な国内企業だったが、今では、シンガポール、香港、米国に開発案件を抱えている。
王氏は次は英国だと打ち明け、早急に自社の投資の2割を中国国外に振り向けたいと語っている。
中国の多角的コングロマリット(複合企業)で、大量の不動産を保有する復星国際(フォーサン・インターナショナル)は先月、ニューヨーク・ウォール街の近くにある高層ビル「ワン・チェース・マンハッタン・プラザ」を取得した。
別の不動産大手、SOHO中国の共同創業者の1人である張欣氏は、今年上期にニューヨークのゼネラル・モーターズ(GM)・ビルディングの一部株式を購入した。
また、同氏は今月、ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオに競り勝って、マンハッタンのアッパー・イースト・サイドにある2600万ドルのタウンハウスを手に入れたと伝えられている。
■不動産王たちの決断の意味
悲観論者でさえ、必ずしも災難が差し迫っていると予想しているわけではない。
スティーブン・ヤン氏は、バブルが崩壊して価格が現行水準から40%下落するまでには最大で5年の歳月がかかる可能性があると話している。
一方で、もう少し楽観的な向きは、比較的小さな都市の地元市場でたとえバブルが弾けても、国家経済を破綻させずに済むと主張している。
しかし、中国の不動産ブームで最も潤った人たちが今、
機会を求めてよそに目を向けているという事実は、何かを物語っているはずだ。
© 2013 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
』
_