2013年11月3日日曜日

来年の中国リスク、バブル崩壊・失速の懸念:「改革」とは旗印、それともお題目

_



ロイター 2013年 11月 1日 13:15 JST
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPTYE9A003B20131101
by 田巻 一彦

コラム:来年は中国リスクを注視、バブル崩壊・失速の懸念併存

[東京 1日] -
 来年の世界経済を展望する上で、中国経済の動向が大きなリスク要因として浮上するだろう。
 不動産価格の上昇を引き金としたバブル崩壊の懸念と、過剰な設備を抱えて経済が失速するリスクを同時に包含するという構造的な問題があるからだ。

 中国経済のリスクが顕在化すれば、米金融政策の動向に大きな影響を与えるだけでなく、
 中国経済への依存度を高めてきた日本経済にとっても大きな脅威になる。

<6月に乗り切った危機>

 中国経済に対する懸念が今年6月にいったん高まった局面があった。
 短期金利が急上昇し、中国の金融システムやシャドーバンキングが内蔵する危うさに世界のマーケット関係者の視線が集まった。

 この時は中国人民銀行が市場に大量の資金を供給し、短期金利の上昇を抑え込むと同時に、政府が景気の底割れ回避を目指し、公共事業を追加するなどの対応を展開した結果、中国の経済指標は明確な回復基調を示すようになった。

 中国国家統計局が1日に発表した10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は51.4となり、9月の51.1から上昇。
 政府が一連の経済改革の準備を進めるなか、中国経済の安定が増していることがあらためて浮き彫りとなった。

 1─9月の中国の経済成長率は前年比7.7%。今年の目標である7.5%成長を達成できる見通しとなっている。

<上がり出した中国CPI>

 だが、中国経済には2つの「病巣」があると考える。

①.1つは、不動産バブルのリスクだ。
 今月22日に中国国家統計局が発表したデータに基づき、ロイターが算出した主要70都市の新築住宅価格は、前年同月比9.1%上昇と8月の同8.3%から上げ幅が拡大。
 上昇も9カ月連続となった。
 特に北京で同16.0%、上海で同17.0%など上昇率の拡大が目立った。

 14日発表の9月消費者物価指数(CPI)も8月の前年比2.6%上昇から同3.1%に上昇テンポが加速。中でも食品価格CPIが同6.1%と目立っている。

<バブル破裂なら295兆円の貸し倒れとの試算>

 中国政府にとって、住宅価格や食品価格の高騰は、勤労者階層の不満を高めるという点で、決して軽視できない政治的に重要な課題になっていると考える。
 国民の所得格差への不満が、住宅価格や食料品価格の上昇という現象で拡大するようなことになれば、安定した政権運営への障害になりかねない。

 また、住宅価格が上がり続けることでバブルが膨張し、やがて崩壊する危険性が高まれば、中国経済に大きな打撃となりかねない。
 ゴールドマン・サックスは今年8月、バブル崩壊が起きる事態になれば、最悪のケースで金融部門の貸し倒れが18兆6000億元(約295兆円)になると試算している。

<オーバーキルにも神経使う中国人民銀>

 だが、バブル崩壊を防ぐため、中国の短期金融市場に流入するマネーの量を絞ろうとすると、国内の過剰設備の低稼働率に拍車をかけ、企業の収益悪化と雇用者の一時帰休などを表面化させ、最終的に国内総生産(GDP)の7.5%成長という中国政府の掲げた目標が達成できなくなるリスクを浮上させる。

 金融の引き締め加減を誤ると、たちまち「オーバーキル」現象が表面化して、中国経済の失速ぶりがあらわになる構図が存在している。

 中国人民銀行の宋国青・金融政策委員が22日、インフレ率の上昇は金利引き上げよりも、短期金融市場での流動性調整で対応する可能性が高いと述べたもの、指摘してきたような「微妙なコントロール」が必要になっていることを示していると考える。

<中国危機の表面化、米金融政策や日本経済にも影響波及>

 世界経済は今年、大きなショックに直面せずに11月までたどり着いたが、このまま平穏に14年も経過するかどうか、かなり不透明感が高い。
 現在はテールリスクにとどまっているものの、メーンリスクに躍り出て、世界経済を震撼させる要素として、
②.私は「中国経済のリスク」を指摘したい。

 バブルが崩壊した場合、その衝撃波は瞬く間に地球を一周し、リーマン・ショック以上の打撃を世界経済に与えかねない懸念がある。
 当然ながら、3月までにそうした事態が発生すれば、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和縮小(テーパリング)の政策は大幅な修正を余儀なくされるだろう。

 リスクの顕在化は、外為市場で安全資産・円への注目度を高め、円高が急進展するリスクも高まると予想される。
 中国市場に進出しているのは大企業・製造業に限らず、流通などの非製造業に及び、製造業でも中小企業が「社運」を賭して中国現地に展開しているケースが多い。

<危機の初期微動は不動産価格と短期金利>

 中国経済のリスクが表面化する前に、初期微動を感じた段階でリスクを抑制する対応に着手するか、それとも傍観するかで、その後の結果に天と地の差が出ると予想する。
 その初期微動は、主要都市における住宅を中心にした不動産価格の上昇として表されるだろう。

 また、中国人民銀が流動性を絞れば、短期金融市場で短期金利が急上昇するとともに、金融システムでぜい弱なところがあぶり出される展開が予想される。

 地方自治体の資金繰りが悪化し、一部の関連金融機関の資金繰りに不穏な動きがあった時も要警戒だ。

 中国政府と人民銀は、綱渡りの政策運営を強いられるだろう。
 綱から転落しないことを切に希望したい。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



ロイター 2013年 10月 31日 15:15 JST
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE99U06920131031
By John Foley

コラム:中国が唱える「改革」に3つの問い

 習近平国家主席が率いる中国の新指導部にとって、
 「改革」とは「旗印」なのか、それとも単なる「お題目」なのか。
 11月9日から始まる中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(三中全会)で、その手掛かりを得ることができるはずだ。

 過去の三中全会では、1978年に改革・開放路線へ大きくかじが切られたほか、1993年には社会主義市場経済が産声を上げた。
 中国共産党政治局常務委員で党内序列4位の兪正声氏は今月27日、今回の三中全会では「前例のない」経済的・社会的改革について討議すると述べている。
 中国ウォッチャーにとっては、ここで3つの疑問が持ち上がる。

①.まず第1に、どんな種類の改革になるのかということだ。
 それは、政治的に何が可能なのかにかかっている。
 最も可能性が高い「改革」は、権力者の中には敗者をほとんど出さない程度の調整だ。
 それには、電気や水道の料金値上げや、行政手続きの簡略化などが含まれるだろう。
 また、銀行預金と不動産以外の長期的投資の選択肢拡大が約束されるかもしれない。
 その他の大部分は、具体策というよりは言葉のレトリックにとどまる公算が大きい。
 中国には税制改革や妥当な社会保障制度の確立、国営企業の効率化などが必要であることは周知だが、それらの断行には恐ろしい既得権益層が立ちはだかっているからだ。

②.第2に、習近平国家主席がどんな力を持っているかだ。
 1978年には、トウ小平氏がまぎれもない中国の最高指導者として返り咲き、経済特別区設置など、後の難しい改革を断行する力を持った。
 対照的に、2003年に国家主席に就任した胡錦濤氏は、国中が沸いた初の有人宇宙船の発射によって影が薄れ、絶対的指導者というよりは、月並みな指導者として表舞台に出てきた印象が強い。
 習近平氏はこれまでのところ、この2人の中間に位置している。
 もし11月の三中全会で明確な主役を演じることができれば、それは、後の大きな改革の断行にも支持を得たことを意味するはずだ。

③.最後に、中国がどんな政治を求めているのかだ。
 中国共産党は本質的に謎に包まれており、三中全会の詳細についても、日程さえ最後のぎりぎりまで明らかにされない。
 故に、トーンの変化は明るい兆しだろう。
 胡錦濤氏は「報告書」を導入することで意思決定の形に微調整を加えたが、それは彼のコンセンサスを重視する姿勢を予兆する動きだった。
 共産党の元幹部・薄熙来被告の汚職裁判では、インターネットを通じて証言の模様などが公開されたが、中国には予期せぬ新たなアイデアが出てくる余地はまだある。
 もし、習近平国家主席が共産党の意思決定プロセスを刷新することができれば、国家を改革することもできるだろう。

[30日 ロイター]

*筆者は「ReutersBreakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



JB Press 2013.12.09(月)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39358

中国の経済成長が限界にきている理由
もはや不動産売却益では地方の成長を維持できない

 秋になると新しい中国統計年鑑が発売される。
 統計年鑑は中国の国家統計局が公表するデータの集大成であり、電話帳のように厚い。

 広く知られているように中国が公表するデータの信頼性は低い。
 しかし、それでも中国を語るには欠かせない一冊となっている。
 それは、いくら信頼性に欠けるとはいっても多くの分野にわたりデータが掲載されているために、経年変化や項目間の関連を解析すれば、中国での起こっていることをある程度推定することができるからだ。

■不動産投資は活発だが住宅は過剰供給の状態

 中国の不動産関連の不良債権額を、統計年鑑に記載された数字から推定してみたい。

 中国の不動産に関連する投資額は13兆元(2012年)である。
 その内訳は不動産業に9兆9000億元、
 交通網の整備が3兆1000億元となっている。
 前年からの伸び率は不動産業が21.3%、交通網整備が11.3%である。

 2012年は中国経済の減速が伝えられ始めた年であるが、
 統計をそのまま信じれば、年率20%を超えた活発な不動産投資が行われていたことになる。

 中国では土地開発や交通網の整備は、地方政府やその周辺に作られた公社が一手に行っている。
 その資金の出所は強制的に収容した農地の売却益である。
 このことについては、既に本コラム(「中国の土地バブル崩壊はもうすぐ」、2011年1月19日)に述べたので参照していただきたい。
注].http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/5241


 中国では農村から都市へ人口移動が続いている。
 これは経済発展の過程で必ず生じる現象である。都市へ流入する人々は単身であることが多い。
 最初はアパートや会社が用意した寮などに住むことになるが、それでも時が経過すれば自分の家が欲しいと思うようになる。

 統計年鑑によると都市人口は、1995年から2012年の間に3億5000万人から7億1000万人になった。
 3億6000万人の増加である。中国の平均的な世帯人数は約3人だから、この17年間に都市部で約1億2000万戸の住宅需要が発生したことになる。

 中国の都市部の住居は日本で言うマンションである。
 一戸建てはほとんどない。
 その平均的な広さは100平方メートル程度であり、国が大きいためか日本より広い。

 統計年鑑によると、2012年に造られた都市部の住宅総面積は10億7000万平方メートルであり、一戸を100平方メートルとすると、1070万戸の住宅が供給されたことになる。

 一方、2012年に都市部で増加した世帯数は700万に過ぎず、住宅は過剰供給になっている。

 2007年まで供給される住宅の戸数は世帯数の増加を下回っていたが、2008年からは供給過剰状態が続いている。
 これはリーマン・ショック対策として、財政支出などにより住宅が建設され、その勢いが2012年になっても止まっていないことを示している。

 統計年鑑には住宅販売の総額は2兆3000億元と記載されている。
 これを建設戸数で割ると、1戸あたりの価格は22万元(約350万円)になる(ただし、造られた住宅が全部売れた保証はないから、この価格より高いのかもしれない)。

 北京や上海では住宅価格の高騰が伝えられるが、地方都市の庶民の収入を考えると統計年鑑から計算される住宅価格は、それほど実態から乖離していないと思う。
 地方都市に住む人々の世帯収入は日本円で100万円程度である。

■地方政府の不動産ビジネスが抱える巨額の借金

 統計年鑑には住宅だけでなく商用ビルを含んだ不動産総販売額についても記載があるが、2012年は4兆8000億元である。
 それを信じると、2012年に地方政府は不動産の売買で4兆8000億元の資金を得たことになる。
 一方、地方政府が不動産関連で投資している金額は13兆元にもなっている。

 年を遡って見ていくと、2001年あたりから地方政府の投資額は不動産売却益よりも多くなっている。
 その差は徐々に拡大し、2012年には8兆2000億元にまでなった。

 1995年から2012年の間に、地方政府が行った不動産投資額と販売額の差の累計は28兆元(約448兆円)にもなる。

 もし、これが事実ならば、地方政府は28兆元を金融機関から借りていることになる。
 地方政府は借金を重ねながら不動産ビジネスを続けている。
 中国統計年鑑は、地方政府の不動産ビジネスが持続不可能であることを示している。

 中国の不動産バブルは限界に達している。
 北京市内のマンションは平均でも1戸が500万元(約8000万円)になっていると聞くが、そんな高値の物件が本当に売れているのであろうか。

 確かに中国には特権階級が存在し、彼らは何戸ものマンションを所有していると聞くが、特権階級の数は多くない。
 彼らが、毎年、1000万戸も供給されるマンションを全て買うことなどできないだろう。
 庶民が購入しない限り、1000万戸にも及ぶマンションを売り切ることはできない。

 現在、高値が付いているマンションは、値はついているものの、実際には取引されていないと推定する。

■中央銀行からのヤミ資金で崩壊を食い止めている

 地方政府が農民からタダ同然で農地を取得し、そこに建設したビルやマンションを売却して得た資金によってさらに開発を続ける。
 それによって循環的に資金が拡大するという成長モデルは、不動産価格が庶民の収入よりも著しく高くなってしまったために、回転しなくなってしまった。

 それが原因で地方政府やその周辺が資金繰りに困り、シャドーバンクからお金を借りた。
 その返済に困ったことから、2013年の春に7月危機が叫ばれたのだ。
 ただ、どうやら共産党が地方政府やその周辺に資金を秘密裏に供給したために、危機を回避することができたようだ。
 中国の中央銀行は、秘密裏に日銀特融のようなことを行ったと推定する。
 ただ、この辺りは、一切情報が開示されていないために、真相は不明だ。

 農民からただ同然で取得した農地を原資にした地方政府のビジネスモデルは完全に崩壊した。

 地方政府による不動産ビジネスは停止寸前の状態にある。
 現在、なんとか中央銀行からのヤミ資金供給によって崩壊を食い止めているようだが、それがいつまで持つかは分からない。

 バブル崩壊の時期を言い当てるのは難しい。
 言えることは、奇跡の成長を支えた中核が壊れてしまったということだけである。
 中国経済は、いよいよ長い停滞に突入し始めたと考えてよい。

川島 博之 Hiroyuki Kawashima
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など




_