2013年9月19日木曜日

中央アジア:躍進中国、沈むロシア、だが満足して中国陣営に入ったわけではない

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●「中国にとって主要なパートナーシップを結ぶ国々」(「環球人物」に基づいて姫田 小夏作成)
「日本を仲間外れにしたい中国中央アジアに急接近、日本は無視?」より


●今年3月、モスクワで開催された式典に出席した中国の習近平国家主席(左)とウラジーミル・プーチン大統領〔AFPBB News〕


JB Press 2013.09.19(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38724

中央アジア:躍進する中国、沈むロシア
(英エコノミスト誌 2013年9月14日号)

 広大な中央アジア地域で、中国の経済力はロシアの上を行っている。

 今から数年前、まだ独立したばかりの中央アジア諸国が膨大な量の石油と天然ガスをどこに送り込まねばならないのかについて、疑問の余地はほとんどなかった。
 強大な旧宗主国ロシアが中央アジア諸国のエネルギーインフラと市場を独占していた。

 ところが最近、新しい油田・ガス田の操業が始まる時には、パイプラインは東へ向かい、中国に至る。
 この点を強調するかのように、中国の習近平国家主席は9月上旬に中央アジアを歴訪し、次々にエネルギー協定を締結、数十億ドル規模の投資を約束して回った。
 習国家主席の歴訪を見る限り、この地域の新たな経済的超大国がどこなのかという点に疑問の余地は全くない。

■中央アジア歴訪で見せた圧倒的な存在感

 既に中国にとって最大の天然ガス供給国であるトルクメニスタンでは、習主席は世界第2位の規模を誇るガルキニシュ・ガス田の生産開始式典に出席した。
 このガス田の生産開始は、中国のトルクメニスタンからの輸入を3倍に増やす助けになる。

 カザフスタンで発表された総額300億ドル規模の契約には、過去数十年間で世界最大の油田発見だったカシャガン油田への出資が含まれていた。
 一方、ウズベキスタンでは、不透明な国だけに詳細は不明とはいえ、習主席と同氏を迎えたイスラム・カリモフ大統領が石油、天然ガス、ウラン関係の150億ドル規模の協定を発表した。

 中国は、中央アジア諸国5カ国のうち4カ国にとって最大の貿易相手国だ(例外はウズベキスタン)。
 中国の国営メディアは習主席の外遊中に、中央アジアとの貿易量が昨年460億ドルを超え、各国が20年前にソ連から独立してから100倍に膨らんだと報じた。

 双方ともそのような言い方はしないが、次第に高まる
中国の存在感は明らかにロシアの犠牲の上に成り立っている
 ロシアはいまだに中央アジアのエネルギー輸出の過半を支配しているが、相対的に見た地域における経済的影響力は、数百万人の出稼ぎ労働者の目的地である以外には徐々に低下している。

 ロシアは長年、中央アジアのことを自国の管轄地域として扱い、ソ連時代に建設したパイプライン経由で石油と天然ガスを市場価格より安く買うことを要求する一方、利ザヤを乗せて資源を再輸出していた。
 このような慣習もあり、莫大なエネルギー埋蔵量を誇るカザフスタンとトルクメニスタンは中国の懐に飛び込むことになった。

■中ロ双方にとって極めて重要な2国間関係

 こうした状況はすべて、少なくとも当面は、中ロ両国が互いに競い合うのと同じくらい協力を目指すことを示唆している。
 モスクワの中国専門家ワシリー・カシン氏いわく、中央アジア諸国に関して言えば、
 「各国が中ロの競合関係から最大の恩恵を引き出そうとする」
ことをロシアは受け入れているという。

 問題が中央アジアの安全保障に及ぶと、中国は表向き、まだロシアの意見に従う。
 両国は北大西洋条約機構(NATO)がアフガニスタンから撤退するのを用心深く見守っている。
 中国の一番の関心事は、ウイグル族の分離独立主義者と、それに同調する中央アジアのシンパがもたらす脅威だ。
 このため安全保障上の問題についても中国の影響力は大きくなっている。

 本誌(英エコノミスト)が印刷に回された時点で、習主席は上海協力機構(SCO)の年次首脳会議に出席するためにキルギスタンの首都ビシュケクに向かっていた。
 SCOは中国が創設に尽力した共同体で、最大の狙いは、テロリズム、過激主義、分離主義という有害な「3つの勢力」に対抗することだ。

 中国の中央アジア投資はほぼ間違いなく、その目標を推進することになる。
 投資によって、中国最西端の省でありウイグル族の本拠地でもある新疆ウイグル自治区と2800キロにわたり国境を接する中央アジア地域の生活水準、ひいては安定性を向上させるからだ。

■「反中感情」という敵

 だが、中国のソフトパワーは、中国が敵に回して戦うのが得意ではない野獣により弱められている。
 中国に対する恨みである。

 中国の建設業者は中央アジアに殺到し、道路やパイプライン、さらにはタジキスタンの首都ドシャンベでは政府庁舎まで建設している。
 仕事を求めてロシアに向かう何百万人もの失業者は、この残酷な皮肉を理解している。

 だが、シンクタンクの国際危機グループ(ICG)のディアドル・タイナン氏によれば、この皮肉は政策立案者には通じていない。
 「中央アジア諸国の政府は中国のことを豊かで協力的なパートナーだと考えているが、現場では、中国人労働者と彼らを受け入れる社会の緊張を和らげる対策はほとんど取られていない」
という。

 2~3年前、カザフのある活動家が中国に土地をリースする自国政府の計画に抗議し、大衆の面前でオモチャのパンダの首を切り落としたことがある。
 だが、中央アジアの嫌中派はくだらないジェスチャーでは終わらない。

 今から10年前、キルギスタンが係争中の領土を中国に明け渡した時、譲渡が引き起こした抗議行動が最終的に大統領を辞任に追い込んだ。
 最近では、キルギスタンで働く中国人労働者が、ひどい暴行を受けている。
 中央アジアはまだ、満足して中国陣営に入ったわけではない。

© 2013 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。



JB Press 2013.10.22(火)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38963

日本を仲間外れにしたい中国中央アジアに急接近、日本は無視?

9月上旬、五輪招致の成功で盛り上がる日本を尻目に、中国はしたたかに戦略的パートナーシップの布石を打っていた。

 中国中央テレビ(CCTV)では、中央アジアを歴訪中の習近平国家主席が、訪問先の空港で民族衣装姿の美女から花束贈呈を受けるシーンが映し出された。
 カザフスタンのリンゴ農園を訪問する姿も大々的に伝えられた。
 おそらく近い将来、中国が同国で資源開発を行うのと引き換えに、中央アジアからの果物が中国にドッと入ってくるのだろう。

 そんな中国の中央アジア外交は、筆者の生活にも影響を及ぼした。

 筆者は上海の大学院に在籍し、研究活動を行っているが、9月から学内の宿舎に戻ろうとしたら、部屋にあぶれてしまったのである。
 宿舎管理室は
 「部屋はもうない。カザフスタン人とモンゴル人でいっぱいだ」
とけんもほろろな態度だった。

 カザフスタンとモンゴルも中国が最近重視する外交対象国だ。
 それに伴い、留学生の受け入れ枠も一気に拡大させたものと思われる。

■まるで「石ころぼうし」を被せられた気分

 中国を訪れる留学生の増減は、中国の外交戦略をストレートに反映する。
 「中国が大事にする国はどこか」は、留学生の顔ぶれを見れば一目瞭然だ。

 中国の大学では、もはや日本人は超マイノリティである。
 優遇もされなければ冷遇もされないが、ドラえもんの“ひみつ道具”で言うなら、まさに「石ころぼうし」を被せられたような状態だと言える。
 (石ころぼうしを被れば「路傍の石」のように誰にも見向きもされなくなる。
 孤独になりたいときに使う道具

 一方、最近はアフリカ人の国費留学生の多さが目につく。
 アフリカ人「学生」は20代の若者であるとは限らない。近
 く、筆者の友人がアフリカから中国に研修に訪れるが、中国は毎年、アフリカ全土から350人に上る官僚を研修に招待しているという。

 中国での滞在期間は3週間から2カ月。
 往復の航空運賃、宿泊費に加え、1日80元(約1280円、1元=約16円)の生活費まで、すべて中国側が負担する。
 研修プログラムは中国語や中国の文化に始まり、工業からIT、環境を含む産業や経済、政治などまでバラエティに富む。
 中国にとって“よき理解者”を増やすには、こうする方法が手っ取り早い。

 9月、習近平国家主席が中央アジアを訪れると、CCTVのニュースは連日、中央アジアを特集していた。
 訪問先のカザフスタンでは、「シルクロード経済ベルト」と呼ぶ中央アジア諸国との新たな経済協力構想を打ち出した。
 中国にとっては、豊富な鉱物資源やエネルギー資源、観光資源や土地資源を手に入れられる経済協力である。

 さらに番組は、「中国語を学ぶカザフスタンの学生」などの特集番組なども放送した。
 たった数年にして流暢な中国語で自己紹介するカザフスタンの学生は「将来は中国で働きたい」と希望を語っていた。

 それを見て筆者が率直に抱いた感想は、「いままでの日本の苦労はどうなってしまうのか」ということだ。

 1997年、橋本龍太郎首相(当時)は政策スピーチでシルクロード外交構想を打ち出した。
 それ以前にも日本は、中央アジア諸国へのODA(政府開発援助)で主導的役割を果たしてきた。

 前日本銀行参事の田中哲二氏の著書『キルギス大統領顧問日記』(中央公論新書、2001年刊)には、中央アジア外交と経済発展に尽力した田中氏の苦労が描かれている。
 それによれば90年代の中央アジアの若者にとっては、日本こそが目指すべき国家発展のモデル像だったことが分かる。

■タイで高速鉄道をトップセールス

 中国の李克強首相は、10月は東南アジア訪問で忙しい。
 タイを訪問した李首相は12日、インラット首相とともにバンコクで開かれた「中国高速鉄道展」を訪れ、中国の高速鉄道をトップセールスした。

 上海紙「東方早報」は、「中国同意泰国“大米換高鉄”」(中国はコメと高速鉄道の交換に同意した)と伝えた。
 つまり、タイの農産物を以てプロジェクトの部分的費用の穴埋めをしようという提案を行ったのだ。

 近年、国際外交を展開する上で、中国にとって「高速鉄道」は欠かせないカードである。
 2009年、中国はロシアと覚書を交わし、2012年はトルコのアンカラ~イスタンブール間の高速鉄道プロジェクトに応札した。

 他にもアメリカ、ロシア、ブラジル、サウジアラビア、トルコ、ポーランド、ベネズエラ、インド、ミャンマー、カンボジア、ラオス、タイなど数十カ国が、中国の高速鉄道プロジェクトに関心を示していると言われている。

 「高鉄外交」はこのあとどんな展開をするのだろうか。
 鉄道業界の新参者、かつ大事故を起こした中国鉄道部に国際社会はなびくのだろうか。

■南シナ海の領土問題は“共同開発”で懐柔

 また、10月4日、習近平国家主席はマレーシアを訪問したが、このときもまたナジブ・ラザク首相に、クアラルンプール~シンガポール間の高速鉄道建設についてセールスしている。
 ちなみに、マレーシアはスプラトリー諸島をめぐる領有権問題の対立国の1つである。

 領有権争いといえばベトナムも対立国だ。
 そのベトナムで、中国の李克強首相は10月13日、グエン・タン・ズン首相と会談した。
 双方が領有権を主張する南シナ海問題の解決に向け、「海上の共同開発」を協議する作業グループを設置させることで合意したという。

 こうした中国の手法の裏には、1980年代、鄧小平元最高指導者が提案した南シナ海問題処理についての
 「主権帰我、擱置争議、共同開発」(主権は中国にある、争議は棚上げし、共同開発せよ)
という大原則がある。

 それは今に至って中国の原則となっているのだが、今年に入って中国新政権はことさらこの「共同開発」を強調し、南シナ海問題の重要議題として扱うようになった。

 地元紙はこう報じる。
 「南シナ海の主権問題は非常に複雑だが、中国はまず各方面に利益をもたらすことを念頭に置いている。
 これにより、南シナ海問題は中国にとって有利に解決できるだろう」

 ベトナムでの共同開発は、生物資源や漁業資源の開発などのほか、天然ガス資源も含んでいる。
 このような中国のやり方に、中国在住のベトナム人は、
 「ベトナムは軍事力で中国にはかなわない。
 もはや言いなりになるほかない」
と半ばあきらめ顔で語る。

 だが、その一方で怒りの声があることも確かだ。
 あるベトナム人は、
 「南シナ海を囲む利害関係国は、中国との領有権問題を解決するために連携して、会議を繰り返してきた。
 けれども、中国はこれにまともに応じない。
 むしろ利害関係国の足並みを切り崩すようなやり方で、個別の交渉をやり始める」
と憤る。

■中国から日本は見えていない?

 さて、中国はこのようにせっせと“お友達づくり”に励んでいるのだが、その“交友関係”にも序列があるようだ(参考:中国外交「パートナー関係」の4クラス、日中経済協会)。

 中国で発行される人民日報系列の雑誌に「環球人物」がある。
 最近の「中国にとって主要なパートナーシップを結ぶ国々」という記事は興味深い。
 なおパートナーシップとは、「両国の関係は一定の信頼感を持ち、重大な問題について根本的な食い違いがない」ことを意味するようだ。
 別の資料ではさらに細かくこれを10に分類するものもある。

 最近では10月17日、タンザニアの訪問を受け、中国はパートナーシップを「包括的提携関係」から「戦略的関係」に格上げし、また18日、カナダの訪問を受け、これを「戦略的関係」に加えた。

 世界の政治動向も経済動向も、もはや中国の影響を抜きに語ることはできない。
 それだけ中国の存在感は大きくなっている。
 しかしながら日本は、この格付表のどこにも入っていない。
 否、かつては存在していたらしい。
 一説によれば、1998年に日中間には「平和と発展の友好提携パートナーシップ」が結ばれていたとも言う。
 だが、今では、中国のパートナーシップの序列にはランク付けされていない。
 つまり“中国の朋友”と見なされていない(アメリカもランク付けされていない。
 これは両国関係の変動を受けたものだと思われるが、別枠の扱いで「新型大国関係」を共同構築した、などとする資料もある)。

 手なずけるに難しい国、ということか。
 昔年の恨みつらみの隣国ということか。
 はたまた、何の切り札も持たない魅力ない国ということか。
 日本はこの先、筆者のように、優遇もされなければ冷遇もされない「石ころぼうし」を被る存在になるのだろうか。

姫田 小夏 Konatsu Himeda
中国情勢ジャーナリスト。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務等を経て97年から上海へ。翌年上海で日本語情報誌を創刊、日本企業の対中ビジネス動向を発信。2008年夏、同誌編集長を退任後、東京で「ローアングルの中国ビジネス最新情報」を提供する「アジアビズフォーラム」を主宰。現在、中国で修士課程に在籍する傍ら、「上海の都市、ひと、こころ」の変遷を追い続け、日中を往復しつつ執筆、講演活動を行う。著書に『中国で勝てる中小企業の人材戦略』(テン・ブックス)。目下、30年前に奈良毅東京外国語大学名誉教授に師事したベンガル語(バングラデシュの公用語)を鋭意復習中。




【トラブルメーカーから友なき怪獣へ】



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