2013年11月8日金曜日

中国:プロのテロリストが中東からやって来る日が近い:続発する自爆事件

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●ウイグル族による犯行とされる事件で、北京の天安門広場に上る黒煙と、道路を封鎖する警察官〔AFPBB News〕


JB Press 2013.11.08(金)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39131

中国に本物のテロリストがやって来る日続発する自爆事件

 10月28日昼、北京の天安門前でウイグル族一家3人の乗る車両が多くの観光客を死傷させた挙句に大炎上した。
 11月6日朝には山西省太原市の共産党委員会ビル前で連続爆発事件が起きた。
 日本のマスコミなどはこれら「テロ事件」を、あたかも中国が大混乱に陥っているかのごとく、大々的に報じている。

 一部には、「中国崩壊の前兆か」とか、「中東と関連した自爆テロなら大事件だ」などと煽る向きすらあった。
 おいおい、一体何を血迷っているのか。

 10日で2件の中国型「テロ事件」が起きたぐらいで、習近平指導部に「さらなる衝撃」など走るものか。
 生まれつき天邪鬼の筆者は最近こう嘯(うそぶ)いている。(文中敬称略)

■氷山の一角

 筆者がこの種の事件に過剰反応しない理由は2つある。
 第1は中東の「ジハーディスト」、「サラフィスト」たちの過激分子のテロ活動を実際に見聞きしたことがあるからだ。
 今から思えば、1980年代前半と2003-4年の2度のバグダッド勤務で、テロにも「プロ」と「アマチュア」があることを学んだのだと思う。

 第2に、最近中国ではこの種の事件が頻繁に起きており、過去10日間に天安門や太原で起きたことなど氷山の一角に過ぎないと思うからだ。
 以下の通り、過去十数年間の報道だけでも、中国ではこの種の事件が何度も形を変えて発生している。
 若干長くはなるが、重要なので少し詳しく記しておこう。

●2000年2月 天安門広場で湖北省出身の農民男性が爆弾を爆発させ死亡
●2001年1月 天安門広場で気功集団7人が集団焼身自殺
●2003年2月 北京大学、清華大学の食堂で爆弾が爆発
●2005年9月 天安門広場の花壇で小規模爆発

●2008年7月 雲南省昆明で男性が2台のバスを爆破
●2008年7月 河北省の警察署で爆弾が爆発
●2008年12月 この男性がカフェで自爆テロ
●2008年3月 ウイグル族女性が北京行き航空機でテロ未遂
●2008年8月 新疆ウイグル自治区で北京オリンピック妨害テロが相次ぐ

●2009年6月 四川省成都で失業中の男がバスに放火
●2009年6月 広東省の工場でウイグル族労働者が漢族に襲われ2人死亡
●2009年7月 新疆ウイグル自治区ウルムチでウイグル族学生による大規模暴動発生

●2010年7月 湖南省長沙で事業に失敗した男が空港のシャトルバスに放火
●2010年8月 新疆ウイグル自治区アクスで群集に爆発物が投げ込まれる
●2010年10月 天安門広場近くで天津出身の夫婦が自家用車に火を付け自殺を図る
●2010年10月 北京の地下鉄ターミナル駅付近で爆発

●2011年5月 江西省撫州で自宅を解体された男が政府関連庁舎三ヶ所を爆破
●2011年6月 天津の地元政府ビルの近くで爆発物を爆破
●2011年7月 新疆ウイグル自治区ホータンでウイグル族が派出所を襲撃、14人射殺
●2011年10月 天安門広場近くで湖北省出身男性が焼身自殺を図る

●2012年2月 新疆ウイグル自治区カシュガルでウイグル族グループが漢族を斧等で襲う
●2012年11月 河南省で陳情者とみられる障害者が自爆

●2013年6月 福建省アモイで生活手当至急に不満の男がバスをガソリンで放火
●2013年6月 新疆ウイグル自治区でウイグル族と警官が衝突
●2013年7月 警察官の暴行に抗議した車椅子の男が北京国際空港で爆発物を爆破
●2013年4月 新疆ウイグル自治区カシュガルでウイグル族武装グループと警官が衝突
●2013年9-10月 新疆ウイグル自治区カシュガルでウイグル族15人射殺、100人逮捕

 ウイグル族の事件が多いように見えるが、実はウイグル族以外の事件の方がはるかに多い。もちろん、これらに対応する中国治安当局の実力を過小評価すべきでもないだろう。

 以上を念頭に、今回の天安門と太原で起きた2つの事件を検証してみると、いくつか興味深い仮説が浮かび上がってくる。

■テロ事件の多くは漢族の犯行?

 まず第1は、天安門での「自爆」や「爆破」事件が決して稀でないことだ。
 今回はたまたま天安門前で発生したが、だからといって、今回特に中国共産党体制が弱体化したと考えるのは誤りだと思う。
 天安門で散発的に事件が起きる度に体制が「衝撃」を受けていたら、共産党がいくつあっても足りないだろう。

 第2に、テロ事件はウイグル族の専売特許ではない。
 中国13億の人口の9割以上は漢族だから、この種の事件の多くは漢族の犯行である可能性が高いのだ。
 しかも、上記事件の大半は土地を不当に収用されたり、官憲に暴行されたりした社会的弱者が共産党・政府に対する不満を爆発させたケースである。

 もちろん、自爆したり放火したりするわけだから、無辜の市民を標的にした無差別攻撃には違いない。筆者もこれらを「テロ事件」と呼ぶことに抵抗はない。

 しかし、これら「テロ事件」の殆どは、中東でよく見かける「プロ」のテロリストではなく、中国各地の地元不満分子の仕業である可能性が高いのではないか。

 これまでも中国では官僚の不正・腐敗や土地強制収用に怒った庶民が政府施設や路線バスなどで「自爆」・「放火」に及ぶケースが圧倒的に多かった。

 炭鉱業で潤う山西省では炭鉱経営や労働条件をめぐる住民と業者・当局間のトラブルも多いと聞く。
 こうした恨みや怨嗟が暴力事件に発展するのだろう。

 それでも、今回の山西省太原で起きた連続爆破事件は従来より組織的、計画的のような気がする。
 爆発物はかなりの威力だったし、現場からは大量の鉄釘や鋼鉄玉も見つかっている。
 先日のボストンマラソンの際に起きたテロ事件を思い出すのは筆者だけではなかろう。

■ウイグル族の行動は抗議と報復?

 では天安門前の車両炎上事件はどうか。
 実は、事件の第1報に接し、筆者はとっさに「ウイグル族ではないか」と考えたが、その後直ちにこれを撤回した。

 ウイグル族ジハーディストがシリアで訓練を受けたという噂も聞いていたので、「ガソリンによる炎上」という犯行がいかにも「プロ」らしくないと思ったからだ。

 しかし、中国治安当局はかなり早い段階からウイグル族説を流し始めた。
 なるほど、そうかと筆者も思うようになった。

 確かに、ウイグル族の実力行使の多くは、政府側官憲の取り締まりに抵抗したり、物理的弾圧に抗議する形で行われている。
 今回もそのパターンを踏襲したのかもしれない。

 唯一違和感があるのは、孟建柱・共産党中央政法委員会書記がこの事件の背後に中央アジアや西アジアに拠点を置くウイグル独立派組織「東トルキスタン・イスラム運動」(ETIM)の指示があると述べたことだ。
 中東の「プロ」のテロリストの動向を少しは知る筆者にも、これだけはピンとこなかった。

 今回の天安門前車両炎上事件は、恐らくは、親族を中国官憲の弾圧により失った失意のウイグル族一家が、絶望の中で当局に対する抵抗と抗議のメッセージを込め焼身自殺した結果ではないのだろうか。
 少なくとも現時点での筆者の見立てはそうだ。

 そもそも、あれだけ統制の厳しい中国の相互監視社会の中で、ウイグル族の不満分子ができることなど限られている。

 武器・弾薬の闇マーケットが数多くあるイラク、シリア、アフガニスタンなどとは異なり、中国では手製爆弾すら、作りたくても作れないのが現実ではないだろうか。

 それでは、ウイグルの「テロリスト」は皆「アマチュア」であり続けるのかというと、必ずしもそうではないだろう。
 現在のような弾圧は必ずウイグル族の報復を生む。
 この悪循環が繰り返される限り、
 いずれウイグル自治区には中東方面から本当の「プロ」のテロリストがやって来るだろう。

 ウイグルのテロを「アマチュア」のレベルに封じ込めるには、現在の力による少数民族対策を早急に見直し、真の民族自決を実現すべきだとは思う。

 だがしょせん、この問題は中国の内政であり、外部が干渉すべきことではない。
 やはり、自ら招いた災難の結果責任は自ら負ってもらうしかないのである。