2013年11月18日月曜日

日豪は緊密なパートナー さらなる協調へ:「積極的平和主義」、EUも支持

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●新たに豪首相に就いたトニー・アボット氏(中央)。右は新外相のジュビリー・ビショップ氏
(提供:ロイター/アフロ)


WEDGE REPORT 2013年11月18日(Mon) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3290
ピーター・ジェニングス (オーストラリア戦略政策研究所[ASPI]所長)

日豪は緊密なパートナー
さらなる協調へ 5つの戦略的提言

 9月に実施された総選挙において政権交代がなされたオーストラリア。
 東日本大震災の後に、ギラード前豪首相が外国の首脳として初めて被災地入りしたが、これにも象徴される親密な日豪関係の流れは、政権が代わっても不変である。
 豪国防省において長年戦略立案・危機管理政策に携わってきた筆者から、両国のさらなる防衛・戦略協力体制の強化に向けたメッセージ。

 オーストラリア(以下、豪州)では、9月7日の総選挙で自由党と国民党の野党・保守連合が決定的大差で勝利を収め、政権が交代した。
 新首相はトニー・アボット氏だ。
 連立政権は貿易と投資、伝統的な友好国および同盟国との協力に大きな重点を置き、インドネシアやパプアニューギニアなど特に距離が近い近隣諸国との関係強化を推進するだろう。
 また、新政府は強力な軍事力を支持している。

 新政権の外交政策チームは、ともに西豪州のベテラン政治家であるジュリー・ビショップ外相とデヴィッド・ジョンストン国防相の2人。
 どちらも弁護士出身で、ジョン・ハワード政権で閣僚を務めた。
 ビショップ氏は自由党における実力者である。
 一方のジョンストン氏は興味深いことに、頻繁な日本訪問の経験から、個人的にも議員としても日本に強い関心を抱いている。

 豪州の政権交代は日本にとって何を意味するのだろうか。
 保守連合は選挙前に公表した外交政策綱領で、経済関係を拡大し、日豪経済連携協定(EPA)をまとめ、より強力な戦略的パートナーシップを構築することで日豪の2国間関係に改めて重点を置くと述べていた。
 意義深いのは、政策綱領の声明はさらに、対日関係に関して豪州前政権の実績を批判したことだ。

 「1950年代以降、アジアにおいて、豪州の最も誠実な友好国であり、最も重要な外交パートナーである日本は、ケビン・ラッド首相が初のアジア歴訪から日本を除外した時に疎外感を覚えた。
 ラッド首相は日本の外相による公式訪問の直前に、何の予告もなく、豪州政府は捕鯨問題を巡り日本を国際司法裁判所(ICJ)に提訴すると改めて発表し、日本に極めて恥ずかしい思いをさせた

■党派を超えて、親密な対日関係

 実際には、親密な対日関係の構築に対しては超党派の強力な支持がある。
 現にジュリア・ギラード首相時代の労働党政権は、日本との防衛・戦略協力関係の強化に尽力した。
 長年、防衛関係の構築・拡大に向けて着実に進展を遂げた末に、2011年3月の三重の危機(地震、津波、原発事故)を受け、豪州と日本の戦略関係は一気に加速した。

 日本の自衛隊と米軍に続き、最初に福島の被災地に着陸したのは、豪空軍のC17輸送機だった。
 ギラード首相は地震と津波の発生からわずか1カ月後に、外国の首脳として初めて被災地入りした。
 震災後に日豪防衛関係が著しく緊密化したのは間違いない。
 連立政権下でも、間違いなくこの傾向が続くだろう。

 豪州のメディアでは、地域で大きな軍事力を持ち世界的経済大国として台頭する中国の役割を巡る議論に多大な紙幅と時間が割かれてきた。
 中国は豪州にとって最大の輸出市場であり、一部のアナリストからは、そのような経済的影響力が米国との強力な軍事同盟に対する豪州のコミットメントを弱めるのではないかとの疑問の声が上がった。

 労働党も新たな連立政権も、豪州は経済的利益と戦略的利益のどちらかを選ぶ必要はないと主張したが、豪州は米中両国が対立を避けるような形で2国間関係をマネージすることに多大な利害を持つ。

■米軍配備がもたらす、地域外交への恩恵

 アボット政権は恐らく、豪州北部への米海兵隊、米海軍の「ローテーション配備」という形で米国との協力拡大を加速させるだろう。
 今後数カ月間で海兵隊の配備が増え、1200人前後が豪国防軍の訓練場で演習を行うことになる。
 労働党政権下では、この新たな協力は16年までに2500人の海兵隊員の定期配備に拡大される予定だった。

 新たな連立政権下では予定が早まる見込みで、パースに近い西部の主要海軍基地を拠点に活動する米海軍の船舶配備を容易にすることに大きな関心が向けられるだろう。
 米軍配備の最も重要な恩恵は、それが、強硬姿勢を増す中国の地域外交について懸念する東南アジア諸国にもたらす安心感だ。

 米豪防衛関係の緊密化は、豪州政府が対中関係の優先度を下げることを意味するわけではない。
 豪州は、中国経済に安定的かつ予測可能な形で必要不可欠な一次産品を供給する国であり続ける。
 中国との政治、防衛関係は今後も大きく変わることはないだろう。

 アボット政権が直面する1つの課題は、中国の軍事力拡大に対する豪州の見解をより明確に説明することだ。

 これまでの労働党政権は2度、国防白書の政策綱領でこれを試み、2度とも失敗している。
 09年には、当時のラッド首相の防衛政策は、地域安全保障についてやや悲観的な見解を示していた。
 白書は
 「中国の軍近代化のペースや範囲は、丁寧に説明されないと、近隣諸国に懸念材料を与える可能性がある」
とし、「敵対する強国」が「我が国の入り口」で作戦を展開しようとした場合に豪州軍が取らざるを得ないかもしれない措置について論じていた。
 ここから生まれたのが、海軍の能力を大幅に拡大する計画だ。

 ギラード首相時の13年の国防白書は、09年の政策綱領の内容の大半と一部の表現を改め、方針を転換した。
 主に中国との外交問題を生むのを避けるために、中国に関する表現は軟化し、13年の国防白書は09年版とは大きく異なる戦略的世界観を示した。
 地域安全保障に関してより前向きな展望を描き、国防費削減の正当性を訴えた。

 アボット政権は米豪同盟の協力関係を強化し、日本やインドネシアなどの主要な友好国・同盟国との防衛関係を緊密化させると同時に、中国への関与の重要性を強調するだろう。
 アボット氏は10年以内に国防費を国民総生産(GNP)比2%に戻すことを約束した(現在は1.6%)。

 アボット政権も、これまでの政権も、中国のことを直接的な軍事的脅威とは見なしていないが、戦略的な競争の激化が地域安全保障に与える影響については、豪州は大きな懸念を抱いている。
 これが最も明白なのが、中国北部と南シナ海において対立する主権の主張だ。
 豪州の外交努力は、各国の主張について平和的解決を求め、中国に対しては、もっとオープンに自国の軍拡の戦略的正当性を説明することを求めることに向けられる。

 また、太平洋島嶼国について、豪州はこの地域の安定に特別な関心を抱いており、中国の外交的、経済的影響力の拡大を極めて注意深く見守っている。

 こうした島嶼国は豪州のすぐそばの地域を構成しており、場合によっては地域の安定を促すために必要となる軍事対応の主導を豪州は国際社会に期待されているからだ。
 豪国防軍は過去15年間、災害救援と安定化任務のために何度もこの地域に展開してきた。

 太平洋島嶼国に対する中国の利権の大半は、これらの国の政府が台湾に政治的支援を与えないようにすることを目的としており、支援プログラムと軍事的関与は各国の自給を促すことよりは、むしろ中国のアクセスと影響力を拡大するために活用されている。
 こうした動きは必ずしも豪州の利益を損ねるものではないが、この地域に対して大きく異なったアプローチを示している。

 さらに、豪州の連立政権は日中両国と一層密接な関係を築くことに加え、インドネシアとインドを外交関係の最優先課題として挙げた。

 アボット首相は、インドネシアは「我々にとって相対で最も重要な関係だ」と述べたが、両国が真の戦略的パートナーシップを築くためには膨大な仕事をこなさなければならない。

 インドについては、インド向けのウラン輸出禁止措置を撤廃した労働党政権の判断が、インド政府に、豪州に対するより前向きな姿勢をもたらしたようだ。
 今後、豪印防衛関係が拡大し、貿易、経済関係が深まる可能性がある。

 12年12月の日本の衆院選後、安倍晋三首相は日本、豪州、米国、インドの間に防衛協力の「民主的安全保障ダイヤモンド」が形成される可能性があると述べた(日本の政府当局者はすぐさま、これは現行の政府方針を反映した構想ではないと指摘する)。
 安倍首相の提案には一定の魅力がある。4カ国はいずれも現実的な民主主義国であり、自由市場を支持し、報道の自由がしっかり確立されたメディア制度を享受している。

 ただし、現実問題としては、この目標に向けた進展は遅く、限られたものになるだろう。
 中国政府に対して、このようなイニシアチブによりあからさまに中国が封じ込められているという印象を与えれば、警戒感を強め、逆効果になる可能性が高いからだ。

■日豪でより強い、防衛関係の構築を

 豪州と日本がより緊密な防衛・戦略協力体制を築く見通しはどうだろうか。

 筆者の考えでは、両国はできる限り強力な防衛関係の構築を目指すべきである。
 50年代以降、日豪両国は同じ戦略的展望を共有する極めて緊密なパートナーになった。
 両国の国民感情は概ね良好で、ビジネスの関係も緊密だ。
 こうした状況は、より包括的な戦略関係に向けた強固な基盤を築く。

 日豪の協力関係を拡大できる分野を5つ挙げたい。

①.まず、海上訓練と対潜水艦戦の高度な軍事演習を拡大するために、もっと多くのことに取り組む必要がある。
②.次に、豪陸軍と日本の陸上自衛隊は、豪州北部の広大な訓練場を含め、軍事演習の機会を模索すべきだ。
③.第3に、防衛産業の協力を拡大し、特に海上戦に関係する様々な一般軍事機能、センサー技術を含めるようにすべきだろう。
 日本は驚くかもしれないが、豪州には提供できる防衛技術がたくさんある。
 また、こうした技術移転は一方通行ではない。

④.第4に、豪州と日本は協調して、人道支援・災害救援(HADR)戦略に関する地域の思考をリードする必要がある。
⑤.最後に、我々はアフリカその他の地域での合同平和維持訓練・活動に重点を置くべきである。

 豪州と日本は緊密な友好国であり、今後さらに緊密さは増すだろうが、協調の限界について感じられる場面もあるかもしれない。
 豪州政府は明らかに中国を封じ込めるように見えるアプローチには慎重になる。
 防衛面での日本との関係が深まると同時に、豪州は中国政府と有意義な関係を築こうとするだろう。
 また、海上での領有権紛争については、外交的に特定の立場を取らない。

 要約すると、日本と豪州の2国間関係が緊密化する見通しは極めて明るい
 。アボット政権と安倍政権は自然と馴染む要素が多々あり、今後数年、互いに協力する素晴らしい機会が訪れるはずだ。

◆WEDGE2013年11月号より

 ピーター・ジェニングス (Peter Jennings)  オーストラリア戦略政策研究所[ASPI]所長
オーストラリア国防省において国際政策部門の筆頭次官補や調整・広報担当の筆頭次官補、同省戦略担当事務次官などを歴任。戦略的政策の立案、危機管理の指揮、国際安全保障に関する調査などを行うとともに、上級高官として政府に幅広く助言を行ってきた。2012年4月より現職。



朝鮮日報 記事入力 : 2013/11/21 08:52
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/11/21/2013112100641.html

安倍政権の「積極的平和主義」、EUも支持

 欧州連合(EU)が日本の安倍晋三首相の主張する「積極的平和主義」を歓迎する意向を示した。
 既に米国、オーストラリア、英国、ロシア、東南アジア諸国連合(ASEAN)も支持を表明している。
 諸外国の支持を追い風として、日本は集団的自衛権の行使に向けた議論を加速させる見通しだ。
 積極的平和主義とは、軍事力を強化し、平和を守ることを指し、その論理に基づく集団的自衛権は同盟国が攻撃を受ければ、自国が攻撃を受けたと見なして反撃する権利だ。

■日本の中国けん制論にも賛成

 日本を訪問したEUのファンロンパイ欧州理事会常任議長(EU大統領)、バローゾ欧州委員長は19日、安倍首相と会談。
 安倍首相は席上、国家安全保障会議(日本版NSC)の設置、集団的自衛権行使など自身が進める安全保障政策を説明した。
 会談後の共同声明には
 「EU執行部は日本の積極的平和主義に基づく安全保障政策を歓迎する」
との文言が盛り込まれた。

 EUは日本の中国けん制政策にも事実上同意した。
 共同声明には
 「東アジアの海域を含む現在の緊張状態について懸念を共有し、EU執行部は緊張状態を高める行動を避け、平和的解決を目指す日本の努力を歓迎する」
との文言も含まれた。
 また、
 「南シナ海などで地域の平和と安定のため、持続可能な解決策を準備すべきだ」
とも指摘した。
 これは事実上、尖閣諸島(中国名・釣魚島)をめぐる日本と中国の領土紛争
 、南シナ海での中国とベトナム、フィリピンによる領土紛争について、中国責任論を主張する日本の論理をそのまま盛り込んだものだ。

■ひた走る安倍外交

 米国、オーストラリアなどは最近、日本の積極的平和主義を支持する立場を相次いで表明している。

 安倍首相が軍事力拡大に対する日本国民と韓国、中国など周辺国の懸念や反感を克服するため、西側や東南アジアの支持をまず取り付けようと総力戦を繰り広げた結果だ。
 安倍首相は
 「日本がPKO(平和維持活動)に積極的に取り組むためには集団的自衛権は必須だ」
という論理で説得している。
 EUとの共同声明にも「ソマリアの海賊取り締まりに積極的に協力する」との内容が盛り込まれた。

 各国はそれぞれの損得勘定に従い、日本の立場を支持したとみられる。
 「世界の警察」の役割を果たしてきた米国は、財政難で軍事的な役割を縮小せざるを得ない状況であり、日本の動きを歓迎しないはずがない。

 EUも米国の軍事力が弱まる中、日本が多額の資金を拠出し、その一部を引き受けることを歓迎している。
 東南アジア諸国は経済協力と中国の影響力をけん制する側面で、日本の立場を支持したとみられる。





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