2013年11月10日日曜日

中国政府は何を「テロ」とみなすのか:中国で「テロの日常化」が始まった?

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●第1のテロ? 10月末に北京の天安門広場で起きた自動車爆破事件の現場 Reuters


ウォールストリートジャーナル     2013年 11月 09日 17:18 JST
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304218104579187062952910066.html?mod=WSJJP_hpp_RIGHTTopStoriesThird
 By    JOSH CHIN

中国政府は何を「テロ」とみなすのか

 【北京】
 中国政府は何を「テロ」とみなすのか――。 
 中国共産党の重要会議を前に発生した天安門広場への自動車突入事件と山西省共産党委員会庁舎周辺での連続爆発事件を契機にこの疑問を巡り、議論が高まっている。

 国営メディアは6日に発生した山西省の連続爆発事件の犯人について、
●.「社会に不満があった」
と報じた。
 一方、先月28日の天安門広場での事件については、中国政府関係者と国営メディアは
●.「テロリストの仕業」
と伝えている。

 2つの事件は9日にスタートする第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の開幕直前という微妙なタイミングで発生した。
 中国の新指導部はこの会議で持続可能な成長への道筋や急激な経済発展によって深刻化した不平等への対応を議論する。

 この2つの事件には政治的な標的が関わっているほか、第三者が死亡したという共通点がある。
 ただ、政府もインターネットの利用者も異なる反応を示した。
 これをきっかけに政治的な含みのある暴力行為の定義について国内外で疑問の声が上がっている。

 新華社通信は8日、山西省太原市の警察が省共産党委員会庁舎前の爆発事件に関連して、市内に住む男を拘束したと報じた。報道によると、豊志均容疑者(41)は事件への関与を認めているという。当局は現場周辺に散らばった鉄球や電子基板を発見しており、手製爆弾が使用されたとみられている。 

 先月28日には北京の天安門広場で多目的スポーツ車(SUV)が観光客に突っ込み、炎上。車内にいた家族3人を含む5人が死亡した。
 中国公安トップはこの事件が新疆ウイグル自治区で暴力的な分離独立運動を行っている「テロ集団の仕業」と述べた。

 共産党と関係のある政治科学者は中国版ツイッター「新浪微博」に
★.「一般の人を標的にしていることは同じでも、『社会に復讐すること』と『テロリストによる攻撃』は違う」
★.「新疆の分離独立主義者の仕業なら、それはテロリストだ」
などと書き込んだ。

 中国では国民が土地など接収や労働争議など関する不満を政府機関にぶちまけようとするときに、手製爆弾による攻撃が起きることがある。
 こうした攻撃は一般的に「社会問題」が原因で、インターネットの利用者は政府を非難することが多い。
 事件を起こした人間に同情する声が聞かれることさえある。

 新疆ウイグル自治区に住む少数民族ウイグル族による攻撃は例外だ。
 中国で多数派を占める漢民族との緊張関係や分離独立派の政治活動が原因で、ウイグル族の暴力に対してはインターネットの利用者も伝統的なメディアもテロ行為としてほぼ一様に批判している。

 ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)を含む外国メディアは、天安門広場の事件について社説や論説で「テロ」という言葉を使うことに疑問を呈した。
 中国の民族政策や宗教政策も非難されるべきとする外国メディアが現れると、
 中国の国営メディアのほか、中国国内のインターネット利用者もこうした海外の論調を激しく批判した。

 国営メディアと外務省当局者は6日、外国メディアはテロについて「ダブルスタンダード」を採用しているとして非難。
 新華社通信は論説で、自動車の中でガスボンベや過激派の宗教的なメッセージが書かれた旗が見つかったことを指摘。
 しかし、西側の論調はウイグル族の関与が指摘されているため事件を批判したがらない、と新華社の論説は批判した。

 世界ウイグル会議のラビア・カーディル議長は4日付のWSJの論説記事に
 「中国政府はウイグルの人々を悪者扱いすることで、ウイグル人への弾圧を漢民族の安全を守るために必要なものとして正当化している」
と書いた。

 山西省の爆発事件は当初、分離独立派の仕業と憶測する声もあったが、容疑者の苗字で新疆ウイグル自治区分離独立派と関係がないことが示唆されると、2つの事件は関連しているとの説は急速にしぼんだ。

 中国版ツイッター「新浪微博」のある利用者は
 「政府はこうした争いの原因を考えるべきだ。そのほうが逮捕したり死刑にしたりするよりずっと重要だ」
と書き込んだ。
 豊容疑者を「英雄」、「兄弟」と呼ぶ利用者もいた。

 中国のテロ専門家でテロについて政府に助言を行っているLi Wei氏は8日、山西省の爆発事件にはテロ攻撃の特徴があるとの見方を支持した。
 Li氏は
 「このような活動と民族を結びつけることに賛成しない。
 犯人がウイグル族でも漢族でもどの民族であっても関係ない」
と述べ、ソーシャルメディアの利用者が天安門広場での事件により強い怒りを感じているのは、事件が北京の中心部で発生し、死者の数が多かったためかもしれないと述べた。

 Li氏はまた、何をテロと見なすかについての議論は言語の問題によって複雑になっていると話す。
 Li氏によると、
★.中国語でテロを表す言葉はイデオロギー的な動機があることを強く示唆するが、
★.英語でテロと言えば、政府や国民を委縮させるために市民に対して振るう暴力などの行動を指す。
 Li氏は中国の中央政府「テロリストの活動については公式な定義を定めているが、一般的なテロについては定めていないのはこうした理由によると述べた。



ニューズウイーク 2013年11月19日(火)16時02分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2013/11/post-3105.php

中国で「テロの日常化」が始まった?
Growing Terrorism in China

山西省共産党ビル前の爆破事件は犯人逮捕で解決したかに見えるが

 中国できな臭い黒煙がまた立ち上った。

 北京の天安門前でウイグル族過激派によるとされる自動車突入・爆破事件が起きてからわずか9日後の今月6日、西に約400キロ離れた山西省の省都・太原市で連続爆発事件が発生した。
 場所は山西省のトップ政治機関である省共産党委員会ビル前だ。

 爆発は早朝の出勤時間帯を狙うかのように、午前7時40分頃から8時頃にかけて連続して7回起きた。
 爆弾の破片や中に仕込まれた鉄球やクギが周辺に飛び散り1人が死亡、8人が重軽傷を負った。

 北京で開かれた共産党の重要会議「三中全会」を目前にした事件だけに、政治テロとの見方や、前週に続く過激化したウイグル族の犯行との臆測も飛び交った。
 事件から2日後、中国の公安当局は太原市内に住む41歳の男を逮捕。
 自宅から爆破装置も見つかり、男は犯行を自供した。
 一件落着のようにも見えるが、それでも謎は残る。

 天安門前の爆破事件で中国政府は発生直後、事件に関するネット情報を封鎖した。
 だが、今回はマイクロブログの新浪微博(シンランウェイボー)で規制がかからず、現場で撮られた鉄球などの写真が一気に広まった。
 地方都市とはいえ、中国の権力の中枢である共産党に直接向けられた敵意を隠そうとしないのはなぜか。

 あくまで個人的事情から地方政府に不満を持つ者の単独犯行ゆえと、中央政府は楽観視しているのかもしれない。
 11年5月、南部の江西省撫州市にある市関連庁舎前で爆弾3発が爆発。
 容疑者の男を含む3人が死亡する事件があった。
 きのこ雲が上がるほど強力な爆薬が使われていたが、男の動機は市による自宅の強制撤去だった。

 今年に入ってからも6月に福建省アモイ市で男が運行中のバスに火を放ち、7月には北京空港で車椅子の男が手製爆弾を爆発させた。
 いずれも政府の理不尽な対応や警察の暴行が動機だったが、こういったテロの「点」はまだ「線」につながっていないように見える。

 89年の天安門事件以来、中国政府は今や年間18万件ともいわれる暴動やデモを力で封じ込めてきた。
 ただ今回の一連の事件をきっかけに、地方都市でデモに代わってテロが頻発するようになれば、公安当局が事前の警戒で事件を防ぐことは難しくなる。
 いわば「テロの日常化」だ。

「点」は「線」につながりかけているのかもしれない。

[2013年11月19日号掲載]
長岡義博(本誌記者)






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